「訓練されたる人情」(広津和郎)

魅力的に語られる花街・芸奴・人情の機微

「訓練されたる人情」(広津和郎)
(「日本文学100年の名作第2巻」)
 新潮文庫

省線電車N駅付近にできた
花街の看板奴・玉千代は、
男に惚れやすく、そして
子どもができやすい体質だった。
すでに四人の子どもを
産み落としていた二十七のとき、
彼女はある大旦那から、
子どもを産んで欲しいと頼まれ、
承諾し…。

花街というのは
小説になりやすいのでしょう。
特にこの新潮文庫・
日本文学100年の名作
収録されたものだけでも、
「洲崎パラダイス」(芝木好子)、
「裸木」(川崎長太郎)があります。
本作もまた、これら二篇と同様、
魅力ある作品となっています。

本作品の味わいどころ①
魅力的に語られる花街

作品中ではN駅付近と
ぼやかされていますが、
これは中央線中野駅であり、
その中野駅と新井薬師駅との
間の土地が、大正期の震災以降、
新井三業となったのです
(三業とは料亭・芸妓置屋・待合を表し、
そのまま花街を意味する)。
つまり本作品は
新井の花柳界の黎明期の様子を
描いた作品なのです。
他の花街より歴史が浅い分、
自由な雰囲気に包まれ、
明るさに満ちていた様子が
生き生きと表されています。
過去の遺物となった花街の、
もっとも生命力のあった時代の空気が、
本作品の一つめの
味わいどころとなっているのです。

本作品の味わいどころ②
魅力的に語られる芸奴

主人公・玉千代が
実に魅力的に描かれています。
男に惚れやすい。
いいことです、男にとっては。
そして若さがいつまでも保たれている。
これもいいことです、男にとっては。
さらに後腐れがない。
これもとてもいいことです、
男にとっては。
実に魅力的です
(女性の方に叱られそうですが)。

本作品の味わいどころ③
魅力的に語られる人情の機微

それでいながら玉千代は
子どものできやすい体質、
これはいいことではありません、
男にとっては
(女性の方にしばかれそうですが)。
それはさておき、
長年子どものできなかった大旦那から
子を産んで欲しいと頼まれた玉千代。
もちろん難なく身籠もり、
無事出産するのですが、
当然その子は引き取られ、
彼女は用済みとなり
手切れ金を渡されます。
しかしその子だけは
居所がわかる分だけ
会いたい気持ちも募るのです。
一目(というよりも一瞬)だけ目にする
瞬間が描かれている終末は、
やはり涙を誘われます。

「どうせこの世の事なんて
 考えて見たって解りゃしないのさ。
 面白おかしく笑って暮していりゃ
 それでいいのさ」

玉千代の言葉です。
浮き世の憂さを
すべて忘れさせてくれる。
それが人々が花街を求めて止まない
理由なのかもしれません。

(2021.11.13)

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